マイナー外科医です。年収の話です。
会社員の方なら、同期で同じ属性(扶養家族か賃貸か、地方勤務かどうか)であればほぼ横並びの収入のことが多いと思います。最近は日本の会社も成果制度を取り入れていることもあるようですが。
医者の世界では、勤務医か、開業医だけではなく地域や、私立病院・クリニックか公的病院か、はたまた大学病院なのか。何科なのか、医局派遣なのか自分で病院と直接雇用契約したのか、等で大幅に給料が変わっています。極端な話、医局で隣に座っている医者が、自分とさして違わない労働をしていても数百万円給料が違う、なんてこともあり得ます。
皆それを分かっているので、不要なトラブルを避けるためにも大っぴらに給料の話はしないし、しても詳細は言わないことが多いです。しかも異動や、バイトなどをしていれば毎年変動も大きいので今年は1500万貰っている!といっても、それは額面の話なのか、手取りの話なのか自分でも理解していないこともありますね。
研修医を終えた医者なら基本的に確定申告はしていると思います。ただ確定申告をしていても支払われている金額と、実際自分が使える金額とは大きな乖離があることに気付いている人は意外と多くはない印象です。
そこで一度は自分の本当の収入と税金・社会保障額を自覚してみてもいいかなと。そして吐き気を催すほどの税金にびっくりしてください。開業医の先生は節税の方法が多いので、ここでは勤務医をメインに説明します。
給与
総支給額、いわゆる手取りです。年俸制のところもありますが、基本給(棒給)のほかに各種手当などが含まれます。基本給+α(役職手当など、勤務先によって変わる)がボーナスの倍率対象になりますね。
医師手当や役職手当などがつくので月収は多くなりますが、医者の基本給は意外と高くないです。マイナー外科医も現在の勤務先では30万円台ですし。今までも多くて40万円前半でした。なので必然とボーナスも多くは期待できず、大手会社員の友人のボーナス額を聞いたときは唖然としました。コロナで今年は少ないわ~っていってたやん・・。
この給与から下で説明する社会保険料が計算されます。正しくは計算に用いるのは標準報酬月額ですね。
※標準報酬月額
4,5,6月の報酬を平均した額。額によって1~50等級(月5.8万未満~139万円以上)まで区分されます。
含まれるもの:基本給のほかに通勤手当、家族手当、住宅手当、役職手当など労働の対価として毎月支払われているもの。寮、定期券など現物支給されているのも含みます。
含まれないもの:結婚祝い金、出産祝い金、お見舞金、出張旅費、賞与など臨時的に支払われたもの。
逆に言えば4,5,6月に残業が著しく多ければ社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料、介護保険)は上がります。確定申告時に社会保険料は全額控除されるますけどね。
育児や休業、大幅な昇給などあれば見直されることもあります。
給与:職種、学年、頑張り次第で変動。上限なし!
健康保険
日本の医療制度を支える非常に重要な財源です。治療を受けたときに3割で済むのは7割はみんなが払う健康保険料から支払われているからです。70歳以上、75歳以上の高齢者なら所得に応じて1~3割になりますね。
医療者の立場からみて色々と問題はあり、思うことは多いですが、少なくともすべての人が平等に治療を受けられるという点では日本の医療は優れています。専門家ではありませんが、コロナの感染者数、死亡者数が各国より少ないのは日本の医療制度も一因じゃないでしょうか。
健康な人にとっては払っているだけになります。事実、医療費約43兆円のうち75歳以上が約16兆円を使用しています。
ただいくら払おうが使えるサービス(医療レベル、費用)などは変わりません。厚生年金は多少貰える年金に差がありますが、健康保険はむしろ高額療養費を考えると年収が高い人は辛いですね。ある意味、罰金。
※高額療養費
ひと月あたりにかかった医療費が高額の場合、上限を超える場合自己負担が低く抑えられる(窓口でいったん支払うが申告すれば戻ってくる)制度。さらに費用軽減できる仕組みもあり。医者なら詳細は分からなくても、患者に簡単な説明や担当部署に案内できるようにしておきましょう。
標準報酬月額によって負担額は変わります。
- 住民税非課税の方⇒35400円
- ~26万円 ⇒57600円
- 28~50万円 ⇒80100円+(医療費-267000円)×1%
- 53~79万円 ⇒167400円+(医療費-558000円)×1%
- 82万円~ ⇒252600円+(医療費-842000円)×1%
たとえ医療費が1000万円だとしても、支払額は所得に応じて35400~344180円になりますね。ただしひと月あたりなので月を跨げば支払う額は増えます。言い換えれば高額になりそうな長期の定期入院であれば、月終わりより月初めがいいということです。余談ですが、節税対策のため親族を不要に入れると、高額療養費の負担額は扶養している人の標準報酬月額で決まるので、高くつく場合もありますよ。
標準報酬月額に応じて徴収料は増加していきますが、月139万円以上でMAX50等級となり、上限は年間969936円(月額80828円)になります。
健康保険:標準報酬月額によって変動、最大80828円。
厚生年金保険料
研修医を終え、大学病院勤務じゃない勤務医の先生、給料明細をみてください。あなたの月額徴収される厚生年金は、ずばり56730円(2020年7月現在)です。どうでしょう、バイトがメインの収入でなければだいたい当たってるんじゃないでしょうか。
実は給料によって厚生年金保険料は変動するのですが、上限があり大体年収744万円(標準報酬月額62万円→額面なら60.5万)を超えたらMAXの31等級で一定になります。
残念ながら9月から上限が32等級まで拡充され、上限は780万円(標準報酬月額65万円→額面なら63.5万円)以上で59475円に値上がりしますね。ただし、将来実際貰える年金は変わらないか、ほぼ間違いなく下がるでしょう。それでも公的年金制度が破綻することはまずなく、不慮のことで働けなくなった場合のセーフティーネットとしては民間保険より優秀なので払わないのは損ですよ。ていうか勤務医である限り源泉徴収されるので払わないのは無理です。
厚生年金保険料:標準報酬月額によって変動、最大56730円。
雇用保険料
休業時、失業時に支給される休業補償、失業保険などの財源になるものですね。職種によって違うようですが、従業員は給与(標準報酬月額ではない)の0.3%を支払っています。実は事業主はそれの倍以上(0.6~0.8%)払ってくれています。年収500万円なら1.5万円、年収1億円なら30万円です。ある意味わかりやすいです。
雇用保険料:給与の0.3%、上限なし。
介護保険料
40歳以上は第2号被保険者となり、介護保険に加入、支払い義務が生じます。徴収料のに関しては標準報酬月額を使用し計算しますが、所得割、均等割、平等割、資産割など4項目から計算します。その割合は市区町村によって変わります。
介護保険料:標準報酬月額によって変動、地域差あり。
所得税(+復興所得税)
累進課税制度。
恐ろしい悪魔、その一言につきます。働けば働くほど驚くスピードで増えるなんて・・。これも罰金。
所得税の速算表
課税所得(A) | 所得税率(B) | 控除額(C) |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
求める税額=(A)×(B)−(C)
上記のように課税所得に応じて税率が変わります。今年は給料増えて〇〇(330、695、900、1800、4000)万超えたから所得税率が変わるわ~、と言っている人。それは年収じゃないですか?あくまで課税所得ですよ。
また累進課税制度には単純と超過があり、所得税は超過累進課税制度です。簡単に言えば一定額を超えたらその超えた分だけに高い税率がかかるということですね。決して全額に高い税率がかかるわけではないです。
高額所得者は稼いでも半分以上税金に持っていかれるはある意味ホントで、最高税率は所得税45%+住民税10%になります。
東日本大震災の影響で、2013年から25年間復興所得税も2.1%徴収されます。今の日本だと、25年経っても徴収されるのはみんな薄々気付いていますよね。
所得税:課税所得×所得税率。累進課税制度、上限なし。
復興所得税:所得税額×2.1%
※課税所得
給与所得(額面)から経費や各種控除を引いた額。
基礎控除、給与所得控除、扶養控除、医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除、寄付金控除etc
住民税
課税所得×10%です。ごく一部の例外(夕張市は+0.5%、神奈川県は+0.025%+年300円等)を除いてどこに住んでも同じです。引っ越ししたから住民税がだいぶ安くなった~、とかは都市伝説です。
給与が低いうちは住民税のほうが所得税より高いですが、約780万円で逆転しそれ以降は所得税が恐ろしいスピードで増えていきます。
住民税:課税所得×10%
まとめ
年収1000万円は手取りで約720万円、2000万円なら1290万円・・。累進課税のおかげで額面で1000万円増えても570万円しか手取りは増えません。マイナー外科医にとっては所得税が大敵です。
書いてて悲しくなってきました。ほんとに正しく税金使ってほしいですね。
参考までに年収100万円~1億円までの方には額面、手取りの概算が非常にわかりやすいサイトがありましたので、リンクを載せておきます。

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