マイナー外科医です。
ブログ更新が途切れた原因の1つ、とある『疾患』に最近遭遇しました。まあ、よく遭遇することなんですけど精神的に疲弊します。
カリフォルニアから来た娘症候群(The Daughter from California syndrome)とは?
患者の終末期や重要な決定に対し、遠方の親族が突然現れ、これまで身の回りの世話の主体となっている家族(医療界ではkey person キーパーソンと言います)と医療者が時間をかけて話し合い決定した方針に異議を唱えたり、延命治療などの過度な治療を要求することです。
もちろん娘に限らず、兄弟姉妹、甥姪など様々な家族が現れることがあります。どうやらこうした状況は世界各国で共通のようですね。
ちなみにカリフォルニアの医療者は、同じような状況をシカゴから来た娘症候群と呼ぶようです。嫌な名前の擦り付け合い。ちなみに、昔のヨーロッパでも同じように梅毒で名前の擦り付けがされていました。
当時梅毒はイタリア、マルタ、ポーランド、ドイツでは「フランス病」と呼ばれており、フランスでは「イタリア病」と呼ばれていた。さらに、オランダ人は「スペイン病」、ロシア人は「ポーランド病」、トルコ人は「キリスト教徒の病」「フランク人 (西欧人) の病」と呼んでいた。
Wikipedia 梅毒の歴史より
実際の状況
プライバシーに関わるのでだいぶぼかして書きます。
とある悪性疾患に罹患し数年前に手術。その後再発し化学療法(抗癌剤)を外来で行っている女性です。
70代半ばですが持病の為、ADL(Activitiesof Daily Living、日常生活の中で生じる基本的な動作のこと)が年相応以上に低下しており、主にベッド周りで生活、外出はなんとか車椅子で過ごしています。
夫を亡くされており独居ですが、幸い近くに住む(と言っても車で30分位)長男夫婦に見守られながら生活しており、外来には長男嫁が付き添いで来てくれています。つまり、キーパーソンは長男夫婦、特にお嫁さんでした。
悪性疾患と直接関連は無いものの、体調を崩して入院となり、我が科の専門的な治療が必要とのことで今回マイナー外科医も担当をすることに。
かなりの体力の低下を認め、正直化学療法を今後継続することは非常に難しく、画像上も効果が見られなくなってきています。もともとの主治医も同意見で、止め時を見計らっていたとのことでした。
入院中本人、長男夫婦、主治医、マイナー外科医、病棟スタッフ等と何回か話し合いの上
- ①化学療法を中止
- ②在宅で過ごすのが難しく療養型病院へ転院
- ③将来ホスピス入所も検討
- ④急変時はDNAR(Do Not Attempt Resuscitation 見込みがない場合は蘇生処置を試みない)
となりました。もちろん本人は家に帰りたいという気持ちがあったと思います。できる限り在宅に帰すことも検討しましたが、ほぼ24時間つきっきりの介護が必要なためどうしても介護者(長男夫婦)のマンパワーなどの問題もあり断念せざるを得ませんでした。
最終的に本人も了承したため、その手配をして、転院日も決定したところ・・・・。
カリフォルニアから来た娘の襲来
正確には東京です。長女(長男の姉、40歳後半、先生と呼ばれる職業)が前触れもなく東京から来院し、大騒ぎしているとのことで病棟から連絡がありました。最初は20時頃でしたかね。
※先生と呼ばれる職業・・学校教師や、弁護士などの士業。もちろん医師も。普段「○○先生」と呼ばれる職業の人。だいたい問題なくても、一部にプライドが非常に高く、指示に従わずトンデモ持論を展開してくる人がいるため対応要注意になることが多い。ちなみに他の要注意な人物は医療関係者。「うちの病院では~」
主張をまとめるとこんな感じです。
- 治療を止めるとは何事か!!!再開しなさい!
- 平均寿命からはまだまだ生きられる!蘇生処置をしないなんて非人道的!!
- 状態が悪いのになぜ個室じゃないのか!有料!?? 無料にしなさい!
- コロナで面会禁止!?遠方から来てるんだから会わせなさい!
- 家に帰りたがってるなら転院はキャンセル、実家へ帰しなさい!
- 義妹(嫁)には任せられない、これからは私がキーパーソン!
- 今後の治療決定権は私!私の了解を得て治療を決定しなさい!
- 介護にかかるお金(年金、生活費を超過)は負担できない
- 介護は長男夫婦が主体となってしなさい!だって私はもうすぐ東京にカエラネバナラナイカラ
見事に全てひっくり返されました。
現在コロナの為、こちらから要請しない限り来院は遠慮していただいている状況。手術の立会い等も原則不可の状況で、着替えなどの身の回りの品を持ってくるときのみ来院可、病棟スタッフに渡し面会せずに帰宅していただくようにしてもらっています。
大変申し訳ないながらも皆さん規則を遵守していただいています。
が。このカリフォルニアガールはその後毎日病棟に現れ、病状説明を要求。病院規則は完全無視。
聞き入れられないとナースステーション前で大声で訴えます。そもそも通常時でも13~16時が面会時間なのに8時~21時までベッドサイドにいるためやむなく病棟師長の采配で無料個室へ移すなど、業務に支障をきたすレベルになっていました。
兄弟仲はあまりよろしくないようで、病気になったことなど最低限の連絡はしていたようですが、10数年以上顔は合わせていなかったとのこと。お嫁さんも血がつながってない負い目があるのか、強くは義姉に言えないようでした。
決着
東京から来て東京に帰るまでの10日間、ほぼ毎日、数回にわたる説明。
当初は全く聞く耳も持たなかったカリフォルニアガールでしたが、多職種カンファレンス(患者本人・親族、医師、病棟看護師、リハビリ科、ケアマネ、訪問看護職員)を行い全員から現状説明および説得されようやく元の方針へ。長かった・・・。
長女も、母親に対して良くしてあげようという気持ちは非常に強かったんだと思います。ただ遠方であまり親と会えなかったせいか、久しぶりに会った親の衰弱ぶりに動揺してしまったとのこと。母を思うあまり、暴走してしまったんでしょう。
患者家族の対応は、下手したら疾患の治療よりも気を使います。今回は説得に応じてくれたので、まだ比較的楽な方ですがこれくらいは年に数回あります。
もっとキツいのになると、クレーマー化して威嚇や脅迫・暴力的手段に訴えてきて最終的に警備員(警察OB)が対応することもありますからね。
親との過ごし方
余談ですが、大学卒業後実家を出て年数日しか親と会わない場合、親と過ごす実日数は1年を切ります。
年6日帰省、親があと60年生きるとして残り360日。
そんなに長生きするのもなかなか珍しいですし、そもそも今年のように実家に帰れない年もあるでしょう。しかも健康な状態の親を見れるのはさらに少ないですね。
まさに親孝行したいときには親はなし、を今回の件で実感しました。
オレオレ詐欺に引っ掛かりそうになる、仕事中に構いなく電話してくる、夜中に友人達の病気相談(病院行ってくれ)などちょっとイラっとすることもありますが優しくしないとですね。とりあえず、ふるさと納税で食料品寄付ですね。
また結婚してからなかなか気軽に実家に寄ることもできていないので、今回を機に久しぶりに会おうかなと思っています。
まとめ
患者家族対応に疲弊した1週間。
実家を出ている人は、親と過ごせる時間はそんなに多くありません。
悔いの無いよう、親との時間を大事にしてくださいね。
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